人生という冒険はつづく

普段の仕事の中で、感じたり伝えきれなかったことを書き留めています

好きなことを選ぶ方が道は険しい

僕は会社で中途採用をしているので、応募者の履歴書には必ず目を通す。人それぞれいろんな経歴を持って応募してくるなあと感じる。同時に転職のタイミングでキャリアチェンジを考える人が多いことに驚く。僕は、せっかく仕事するなら自分の好きなことをやりたいと考えている。未経験で新しい業界に飛び込むという勇気は応援したいが道は険しいからオススメはしていない。

 

 

自分の好きなことを仕事にすれば、やる気も出るしなんでも興味を持てる。少々の嫌なことも我慢できる。それが一般的な理屈だ。興味の持てない仕事を嫌々やるよりもパフォーマンスは上がりやすいと言う。では、どうしたら好きなことを仕事にできるのだろうか?

 

ます、仕事で対価を得る為に必要なのは、人に求められることだ。他の人がやりたがらないことを代わりにやること。相手が面倒だと感じることや、嫌なことを代わりにやってあげる。それが仕事が生まれる原点である。

 

例えば、お腹が減ったけど、食事を作るのは大変だ、後片付けも面倒だと思う。だから飲食店に行きたいと思う訳だ。食べることが好きで、飲食店で仕事をしたとしても、自分が食べる料理を作るわけじゃない。食べるのはお客様だ。作りたい料理を自由に選べる訳でも無い。

 

僕の働く業界で言えば、Webデザイナーは人気がある職種だ。接客業をしていたが、ものを作るのが好きで、憧れていた。自分の手で生み出したい。と応募してくる。そのためにWebデザインのスクールに通って技術を学んできたと言う。

 

デザイナーの仕事の大半は、ものづくりというより接客だ。クライアントの要望にどう折り合いをつけていくかという交渉に多くの労力をかける。担当者はデザインが出来ないから、デザイナーに要望を伝える。それを元に作るのだが、出す度にああしたい、こうしたいと修正を繰り返す。その挙句「社長がこう言った」の一言でひっくり返されてしまう。しかし相手の望むものをつくるのが仕事だ。「ものづくり」と言うよりも小間使いと言った方が正しいとデザイナーが愚痴る場面も多い。

 

好きだからと言っても、お客様あっての仕事は思い通りにならないことの方が多い。締め切りもある、調子が悪くても常にアウトプットを求められるからプレッシャーがかかる。仕事だからこそ、見たくないものを見せられたり、不得意で嫌いなことを、克服する必要に迫られる。周囲との人間関係にも悩まされる。好きで期待してるからこそ、理不尽に感じられる場面もたくさん出てくる。

 

好きなことと言っても、普段みているのは、完成した後だ。その制作過程は表から見えない。お客様として接するのと、提供側として仕事をするのでは、見える風景も全く違う。レストランで働くとしたら、初めはみんな皿洗いからだ。そこで挫折する人の方が多いと聞く。でも、それが手際よくできなければ、とてもじゃないが、たくさんの人があれこれ注文してくる料理を裁くことはできないだろう。

 

デザイナーだって同じような下積みがある。一通りの技術を学んだからといってすぐにクライアントから仕事が受けられる訳ではない。社内でデザインに必要な素材写真を選んだり、それをひたすらレタッチして画像のリサイズをしたり「作業」と呼ばれるようなことを、社歴はあるが年下のデザイナーからあれこれ頼まれることになる。自分の力が発揮できないと言っても経験が少ないのだから仕方がない。

 

それを超えて一人前として扱われるには、一定の時間がかかる。キャリアチェンジするなら、最初から取り組んでいる人よりも遅れをとっていることは前提になる。年下デザイナーに指示されて使われるのが不満だとした時、あなたは「好きなこと」の為に、どれだけの時間を集中する事ができるだろうか。仕事ができるようになるために、24時間365日全てを犠牲にして優先して取り組むことができるだろうか。

 

僕は好きなものを仕事にしているように見える人とは、むしろ不器用で、それしか選べなかった人ではないかと思う。好きとか嫌いとか言う前に、それしか出来なかったから集中して取り組むしかなかった。気づいたら周りが追いついてこなくなって、自分が第一人者になっていた。そんなところだ。その影にある努力は並大抵ではない。というよりそれ以外のことが目に入らなかった、という方が正しいかもしれない。

 

人に喜んでもらいたいと思っていて、自分がやれることが料理だった。だから、自分の料理を食べてお客様が満足するなら、それで満足だ。という風に思えれば幸せだ。料理自体は手段であり、目的ではない。仕事とは、自分が幸せになるための1つの手段に過ぎない。

 

本当に自分の好きなことだけをやりたい。それ以外のことはいらない。そんな人以外は、好きなことを仕事にしなくてもいい。あなたが、いくつかの道を選択できるのなら、好きなことと仕事、その2つを分けることを考えることもできる。その方が嫌なことを適度に避けながら自分の好きなこと、達成感を感じられることに取り組むことができるのではないだろうか。

 

あなたが、今、好きなことを仕事に選べていないとしても、嘆くべきことではない。自分の好きなことと仕事は分けて考えればよい。好きなことをやるための資金を得るための仕事をしていると思えばいい。副業が認められるなら、稼ぐ仕事はそのままにして、好きな仕事もやればいい。お金を稼ぐこと(手段)と、自己実現や達成感(目的)を別にすれば何の問題もない。それでも、好きなことを仕事にしたいと思うなら、それは決して楽な道ではないことを覚悟して欲しい。