人生という冒険はつづく

普段の仕事の中で、感じたり伝えきれなかったことを書き留めています

転職では、やりたくないこともリストアップする

成功する転職として語られるのは「やりたいことを実現するために転職する」という前向きな行動だ。しかし、実際の転職は「この職場に居たく無い」という後ろ向きな理由から考え始める事も多い。

 

 

そもそも「転職で夢がかなった」というストーリーは人材会社の作り出した幻想に過ぎない。転職に関する情報をさがしていると、やりたいことを実現するのが素晴らしいこと。本当にやりたいことを見つけたら、自分を見直す。これまでの経歴を棚卸しする。強みを生かせるように自分を磨く。というように進む。そして、最後に自分を磨くためのスキルアップのサービスを紹介される。

 

人材会社というのは法律で企業側からしかお金が取れない。だから転職しようとする従業員からお金をとるには、資格をとるために勉強するとか、仕事に役立つスキルアップをするとか、自分が何か身につけたいという理由で教材やスクールにお金を使ってもらうしか無い。

 

だいたいにおいて、そんな前向きな行動がとれるなら、今の時代、転職しなくたって副業だっていいのではないかと思う。やりたいことの実現と転職を結びつけるのは、本来なら転職しなくていい人を転職に駆り立てて、人材会社のビジネスを増やすためである。

 

自分の経験からしても、転職を思い立つのは、嫌なことがある、理不尽な扱いを受けた、体調を崩して仕事が続けられそうにない、といったネガティブな状況においこまれているからだ。そんな状態で、自分に向き合ってもプラス思考の行動をおこすのは難しい。とにかく、この最悪な状態から抜け出たい、それが本音である。

 

最近、若い子から転職の相談を受けた。「新卒からこれまで頑張ってきたけど、会社の雰囲気が合わない、唯一頼りにしていた先輩も辞めてしまうのを聞いて、転職をする決心をした。だから相談に乗って欲しい」とのこと。

 

彼女は、デザインの専門学校を卒業後、ウェブ制作会社に入って5年。仕事を回せるディレクターとしても認められるようになっている。人からみたら羨ましい環境だ。先輩が辞めたのだから上に上がるチャンスだとも言える。だけど、本人としては、その会社で経験を積んで上に行こうという気持ちは持てないらしい。では、転職して、どうしたいのか?と聞くと「特にこれをやりたいという希望は無い」という。

 

 彼女は、若くて制作会社で実践経験があるから、書類審査は通るだろう。問題は次の面接だ。「会社に入って何をしたいのか?」必ず聞かれる質問だけに重要だ。採用する企業は、その人となりや、将来へのキャリアプラン、募集しているポジションに見合うかを判断する。新卒ではないから、自分の言葉で具体的に回答しなければならない。彼女は、もともと人見知りで、引っ込み思案な性格。その場でうまくまとめるのは難しいだろう。

 

そこで、最初に彼女に提案したのは「嫌なこと」「やりたくないこと」をリストアップすること。やりたくないことが明確になれば、自分の転職する理由を明確にできるだろう。やりたくないことを避けて自分なりの心地よい環境を思い描かれば、新しい会社に望むことや、やりたいことも浮かび上がってくるだろうと思ったからだ。

 

一週間ほどで上がってきたレポートを見て、なるほどと思った。嫌なのは、「指示が不明確なこと、会社方針や組織がよくかわること、評価も曖昧なこと」やりたくないのは、「クライアントと交渉すること、人の上に立つリーダーとして指示をだすこと」

 

今いる会社は、100人以下で、いわゆるベンチャー気質な会社なのだ。だから、年齢にかかわらず仕事を任されるし、クライアント仕事なので臨機応変な対応が求められる。会社も仕事の状況に合わせてよく組織変更が起こる。また評価基準も明確ではない。大きな仕事に関わって目立ったスタッフが社長の一存で持ち上げられたりするようだ。彼女もそれなりに評価されているから、上が辞めたらリーダーシップを求められるだろう。

 

そこで、彼女にこんなアドバイスをした。ウェブ制作の仕事を続けるならば、少し大きめの会社で、ルールが明確である職場が向いているだろう。他の人の上に立つことも望まないなら、なにかしら専門性は持つような方向で考えた方がいい。幅広くやるのではなく、得意な所を伸ばしたい、そのための転職する。というようなストーリーで話ができれば、いきなりマネージメントというポジションにはつかないだろう。

 

最終的に、彼女は自分自身の今後の生活を考えて、故郷へのUターンを希望した。東京で上場している制作会社を選んで、地方オフィスへの配属という転職を決めたようだった。

 

転職の成功はやりたいことへの思いの強さだ、なんて言われたりするけどそんなのは嘘だ。前向きな転職だから成功するとは限らない。いい話を聞かされて、いざ転職したら、ブラック企業だったなんてことはいくらでもある。

 

後ろ向きな理由で辞めたいと思った時は、辞めればいい。やりたいことがあれば一番いいけど、やりたくない状況で給料のためだけに続けるのは限界もあるだろう。実際、誰もが仕事を続けている理由なんてのは、やりたいことができるということよりも、一緒にやっていて助けたい同僚がいるということの方が大きい。人のためにやる、それが「やりがい」というものだ。

 

前向きな理由でも、後ろ向きな理由でも、転職は仕事内容も周りの環境も全てを変えることになる。あなたが、今、転職を考えているのだとしたら、やりたいことだけでなく、やりたくないことも明確にすることを強くお勧めする。それが、より良い職場を得られる可能性を高めることに繋がるはずだ。