人生という冒険はつづく

普段の仕事の中で、感じたり伝えきれなかったことを書き留めています

絵を描くたった3つの手順

多くの人から「絵は難しい」「絵が描けない」という話しを聞く。でも、あなたの手が不自由ではなければ(たとえ多少不自由があったとしても)絵を描くのは、実は難しいものではない。それが証拠に文字を書けない小さい子供でも絵は描ける。
 

 


誰もが小さい時は、自由に絵を描いたことだろう。いつから絵が描けなくなったのだろうか?小学生だろうか?中学生だろうか?描けなくなるタイミングは人それぞれだけど、多くは人の目を気にし始める頃である。他の人よりもうまく描けない。絵が下手で恥ずかしい。という気持ちが「私は絵が描けない」という結論を導くようだ。
 
要するに「上手に描けない」から絵が描けないと言っている人がほとんどだ。しかし、「絵が上手」という定義はなんだろうか?本物そっくりに描けるってことだろうか?それは大事だけど、無理して描かなくとも写真に撮ったっていい。マンガとかアニメとかそういうの絵が好きなのかもしれない。それこそ千差万別で結構絵が乱れてる人もいる。「絵が上手」の定義は人それぞれだ。
 

文字をちゃんと書ける人ならば、手を動かせば、丸も四角も描けるだろう。そもそも、絵を描くとは、この基本的な形を、組み合わせたものと言ってもいい。あなたが「絵を描けない」というのは思い込みである。絵を描く素養はある。もし、描けないとすれば描く方法を知らないだけだ。
 
ただし 、一般に誰が見ても「整った絵」「美しい絵」を描くのはテクニックが必要になる。ここで語りたいのは、手先が器用だったり、テクニックが無くても、絵を描ける方法である。もちろん、より美しい絵を描けるようになる為の基礎となる考え方でもある。
 
そもそも絵を描くというのは、コミュニケーションの1つである。話したり、文章を書いたりすることと同じ相手に意思を伝える手段である。故に上手な絵とは「意図が相手に伝わる絵」と定義したい。
 

話しは変わるが、僕の中学生の息子は絵を描くのは苦手である。この夏、宿題でポスター制作の課題が出た。これを手伝う中で、絵が描けないのは、絵を描く手順を知らないだけだと気がついた。そこで僕と息子の会話を題材として、絵の描き方を説明していきたい。
 
絵を描くの手順は以下の3ステップだ。
1.何を伝えるか決める
2.どう表現するか決める
3.自分のできることをやる
 
まず最初に考えなければならないのは、「誰に何を伝えるか?」ということだ。描く目的と言ってもいい。あなたは、いつも「何を描くか?」から考えてしまうのかもしれないが、それは後回しにした方が良い。
 
息子の宿題のテーマは、「未成年の喫煙防止」ポスターだった。

まずはどういう絵にしたいのか、描かせてみる。息子は、早速、下書きの紙に吸いかけのタバコを真ん中に置いてその上にバツを描いた。

 

僕「ちょっと待て息子よ、それでは、「ここではタバコを吸ってはいけません」というポスターに見えるよ」
息子「何がだめなの?」
僕「この絵は、タバコを吸ってはいけないということは辛うじて伝わるけど、未成年が吸わないように防止したいという要素が抜け落ちてる」

 

参考資料の調査では、タバコを吸うきっかけで多いのが「友達に勧められたから」というものなのだそうだ。
まだ、吸ったことがない同級生が、悪い友達から誘われた時に、このポスターを思い出して踏みとどまらせねばならない。では、どうしたらそうなるのだろうか?

 

僕「タバコ吸ってみろよ、って友達に言われたらどうする?」

息子「嫌だ」

僕「何が嫌なの?」
息子「煙いから嫌だ」
僕「でも、友達が良いものだと言うんだよ?」
息子「うーん、、一人の友達に、好かれても、ほかのみんなから嫌われると思う。それは嫌だ」
僕「なるほど、それはいいね。気持ちが伝わりそうだ」

 

というわけで、「タバコを吸うと友達に嫌われる」ということを、クラスの皆に伝える絵を描こうという方針に決めた。
 
伝えたいテーマがなければ、いくら上手に描いても何を言いたいのかわからない。伝わる絵を描くには、見た人にどう感じてもらいたいか?ということを明確にする所から始まるのだ。
 
次に、「どう表現するか決めていく」

最初に考えたような、タバコを中心に描くというのでは、うまくいかない。タバコを吸う人が嫌われるシーンを描くのだから、人が中心になるはずだ。タバコを吸う1人ぼっちになるという印象を出すためにはどうするのかを考える。

 

僕「ひとりぼっちとは、どんな状態?」
息子「多分、近くに友達が居ないってことだね」
僕「でも、本当にひとりだと嫌がられるいうことが、よくわからないね」
息子「仲間外れになると良い」
僕「そうだね、友達が遠巻きにしてるという構図が必要だね、じゃ、仲間って思うのは、何人くらい必要だろうか?」
息子「3人くらいかな、、」
僕「そうだね、そうすると、タバコを吸ってる1人を加えて、合計4人描けば良さそうだね」

息子「そうだね」
僕「では、3人と1人はどうなってたら嫌われてるように見えるかな?」
息子「ちょっと離れてる」
僕「そうだね、距離が近いと同じ仲間になる。でも、距離を離すと真ん中に大きなスペースができちゃうね、、」

息子「友達は遠くにいるから、小さく描いたらどうだろう」

紙の大きさの都合もあるから、ここでは距離が離れてる感じを、人の大きさの大小で表現しよう。

 

伝わる為には、それを見る人が感情移入できる、共感しやすい場面を考えることだ。今回は、いくつものアイデアを検討する所は割愛しているけれど、絵を描く時に一番時間をかけるべきなのは、この描く場面を検討するところだ。何をどう配置したら、もっとも早く伝わるのかをよく考える。これが決まれば、絵を描くのは8割がた終わったようなものだ。

 

では、いよいよ描き始めよう。そこで大事なのは、「自分のできることをやる」ということ。
まずは、不必要なものは極力省く。
僕「じゃ、4人を描いてみよ」
息子「僕、描けないよ、棒人間でいい?」…4人描く。
僕「悪くないけど、肝心なタバコを吸ってることがよくわからないね。これ、手足いらないんじゃないかな?面倒そうなのは描くの止めちゃおう」
というわけで、丸い頭と四角の胴体を組み合わせてみる。それはまるで「こけし」だ。それで十分だ。むしろ表情は大きく表現できる。
 
この人の顔を正円で表現する場合、フリーハンドで描きたいなら、一定期間の鍛錬は必要になる。しかし、コンパスを使えば、あなたでも簡単に正円を描くことができる。そのように、無理せずにやれることをやればいい。あとは、よく使われている表現を引用する。


僕「まわりの友達は、どんな表情をしていると思う?」
息子「嫌がってる」
僕「それはどんな顔だろうか、笑ってはいないよね?」
息子「煙くて怒ってる。あとは辛くて悲しんでる。とか」
僕「目は斜めの線で表現できる。目尻をあげると怒った目だ。悲しい時は涙が出る。口はどちらもへの字になるだろう」

息子「こんな感じかな」…円の中に描く。

僕「じゃ、タバコを吸ってる人はどうだろう?」
息子「目が死んでる」
僕「いいね、でもそれは、どうやって表現するんだろう?」
ネットで「目が死んでる人」で検索すると、三白眼っぽい表現を目が死んでると表現しているようだ、これを借用しよう。

 

あとはパーツの位置関係、自分の顔写真を撮ってパーツの配置を確認してみる。

息子「思ったよりも目の位置が低いかな」

僕「さっきは顔の中心には鼻があるように描いていたけど、実は目の位置が真ん中あたりにある」

息子「わかった」…修正する。

絵は位置関係とか面積などバランスを合わせと、それらしく見えてくる。

ネットにも素材はいくらでも転がっている。最初はそれを真似をするのでも良い。「真似はいけない」という意見があるかもしれないが、絵が描けないと嘆いているレベルのテクニックでは、いくら真似をしてみても、他人から見たら、似ても似つかないオリジナリティある絵になっていることだろう。

 

という訳で、息子の宿題は、この後の色塗りまで、すったもんだしながら1日がかりでなんとか終わらせることができた。

 

文学的な表現ができなくても、誰でも意思を伝えることができる。同様に、絵は意思を伝える手段だとすれば、どんなに稚拙な表現だとしても、伝われば問題はない。その為には、最初は面倒でも3つの手順を守った方が良い。すぐに慣れて意識しなくなる筈だ。

 

なかなか思うようにいかなくて、自分では満足できる出来でなかったとしても、勇気を持って誰かに見せてみよう。SNSで公開しても良い。何度も描いていれば、自ずとテクニックもついてくる。下手なら下手なりにあなたの個性だと思えば良い。絵を描くことは、そんなに難しい事ではない。絵が苦手なんて思わずに、あなたも明日からチャレンジしてみて欲しい。